Spinel更新再開までの、臨時のメモにしときます。
ちょっとネタ投下。
なんか昔のメモみっけたら急に書きたくなっちゃった。。。
なんか昔のメモみっけたら急に書きたくなっちゃった。。。
外套の下からのぞいた顔は、まさしく彼のもの、だった。
彼を目の当たりにし、女王の顔が歪む。ぎり、と歯を食いしばる音が聞こえた気がして、青年は思わず主の背にまなざしを注いだ。
砂塵が舞う中、二人の視線が絡む。
「すみません、陛下」
彼は、晴れやかに微笑った。
「私、忠誠を誓う相手がいるんです―――あなたとは、敵になってしまうんですよねぇ」
にこにこ。いつだったか、女王への愛を囁いたときと同じ顔で。
彼は、残酷に、嗤った。
気づいたら、剣を抜きはなっていた。
ただただ、彼が憎かった。
凍り付いた女王の心を蕩かし、囚にし……今、最悪の方法で裏切った、彼が許せなかった。
しかし、青年の刃は彼に届くことはなかった。
青年の目の前に差し出された、白く美しい女王の手が、それを許さなかった。
「っ、陛下……」
「下がっていろ。私は、……私を、信じろ」
背後に立つ青年には、女王の表情は伺えない―――が、しっかりした口調にわずかに安堵し、おとなしく後ろに下がることにした。抜き身の剣を下げたまま。
「久しぶりだな。王宮から消えたときには、どうしたのかと思った、……」
甘く、切なく。
女王が、彼の名を、呼んだ。
その声音に、彼が甘く微笑む。
「私とともにおいでなさい、陛下」
さしのべられる、手のひら。
「我が君は、あなた様を妃にと望んでおられるのです……血を流すことなく、大陸を統一するために」
朗々と紡がれる声音は、質のいい竪琴の音色であるかのように、艶やかに、美しく、妖しく女王の耳に滑り込んだ。
「どうぞ、いらされませ。形だけの婚姻で構いません、あなたはただ、我が君の妻となっていただくだけでいい……我が王は、陛下を慰むつもりはございません。……大陸統一のあかつきには、我が君は私とあなた様を添い遂げさせてくださると仰せになりました。私を貴族として遇し、あなたを下賜していただけると。身分の差など関係ない……あなたは、私を好いてくださっているでしょう……?」
さぁ。手をとって。
さしのべられた手のひらに、ふらりと女王の体が傾ぐ。
ふらふらと歩み出す女王を、青年は血がにじむほどに唇を噛みしめ、見ていた。
そして。
彼の間合いのほんの少し外で、女王の歩みは止まった。
「……さぁ。どうしたのです、陛下?」
促す彼の微笑みが凍り付く。
目にも止まらぬ早さで、女王が剣を抜き、彼に突きつけたのだ。
「な、何を……?」
じり、と彼が後ずさる。その分間合いを詰めながら、女王は―――笑った。
「随分となめられたものだなぁ?なぁ、間者殿」
冷え冷えとした声音に、先ほどの甘さは、無い。
「60越えた老いぼれが、この私を……ディルガザリア女王を妃に、だと?笑わせてくれる」
くつくつと肩を揺らす女王。予想外の反応に驚いた彼は、白皙の美貌を青く染め、彼女にすがった。
「何をおっしゃるのです陛下、あなたは私を……私を愛していてくださったのでは……」
「はっ! お前こそ何を言っている? 私は女王。私の婚姻は国家の婚姻。故に自由になるものではないと、お前には伝えただろう」
心底嘲るような声の調子に、ますます彼の面からは血の気がひいていく。
「忘れてしまったのなら、もう一度言ってやろう。……最も、もう意味はないかもしらんがな」
冷たい声が、響く。
「この国の女王になったときから……とうに覚悟など決めている」
サラ、と漆黒の髪が揺れた。
「私は国家だ。私は国の母たる者だ。私個人としてではなく、為政者として生きるって決めてんだよ」
女王は朗らかに微笑む。
「お前は、敵だ。我が国家を脅かす、害獣だ。故に―――斬る」
剣を構える女王の姿に、躊躇など、無い。
「う……わぁぁぁあああ!」
彼はめちゃくちゃに叫びながら逃げようと女王に背を向け―――
そしてそのまま、大地に鮮やかな紅い花を咲かせた。
「……ご立派です」
青年は女王の手から血に汚れた剣を受け取り、清める。
女王の顔は見なかった。……そうすべきでないと、知っていた。
「うん。だって、私、女王なんだから」
どこか幼い頃に戻ったような口調が、女王の唇から零れる。
そして―――
「……でもね、ちょっとだけ、……ううん、結構……辛いやぁ……」
ほろりと、真珠の涙が、女王の頬の稜線を滑り落ちていった。
それを見ないふりして、青年はただ、女王の傍らに佇んだ。
「私が、いますよ。陛下」
「え……?」
「私はあなたに、永遠の忠誠を誓った身。あなたの盾となり、剣となり……あなたが望むのならば、思い切り甘やかす父親にもなりましょう」
「おまえ……?」
「私が、おそばにおります。あなたの側に。あなたに何があろうとも、ずっと」
騎士の誓いは、真の契りでございます故。
照れくさそうに歩き出す青年の、首筋まで染まった赤い顔を見て、女王はほんの少しだけ、笑うことができた。
「じゃあさ、私が望んだら、おまえ私の愛人になる?」
「なっ!! 何をおっしゃいます陛下!」
「……嫌なんだ……」
「いえ、そんなことは無いですけれども。陛下ちょっとあっさりしすぎじゃないですか?」
「……ふさいでる暇、ないじゃん。さっさと宮城に帰って、侵攻の準備にかからなきゃ。やることはたくさんあるのだから……」
そういって少しだけ遠い目をした女王は、次の瞬間にはにっこり笑った。
「だって私は、この国を守る女王なんだからな!」
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